数字で見るクロップステアリング:ECとドライバックの目標値の出どころと、試験が示していること(前編)

クロップステアリング(生育方向制御)とは、培地に残る水分と肥料塩の量を調整する手法です。これによって、植物が葉と花のどちらに力を注ぐかを方向づけます。この手法の目標値は、とても自信をもって語られています。よく見かけるのは、「ジェネレーティブ」用の決まった培地EC値、夜間10%のドライバック、生育段階ごとの決まった灌水量などです。ところが公表された研究を調べても、これらの具体的な数値を裏付ける大麻の試験は見つかりませんでした。出どころをたどれた具体的なしきい値は、どれも灌水機器を販売する企業のトレーニング資料に行き着きました。

大麻の乾燥ストレスや、根のまわりの塩類濃度については、査読を受けた研究があります。ただし、どの研究もこれらのしきい値を裏付けてはいません。ドライバックを他の要因と組み合わせて検証した試験は、公表されたものでは1件しか見つかりませんでした。この試験で使われた2品種では、「ジェネレーティブ」なドライバックを大きくすると収量が上がる、という考えは支持されませんでした。また、この試験は培地メーカーと種子会社が費用を出したものです。発表は企業ブログだけで、査読を受けておらず、詳細もほとんど示されていません。

クロップステアリングの土台にある植物科学は確かなものです。一方で、具体的な数値は「証明された結果」ではなく「メーカーの推奨値」として扱うのが妥当です。前編では、クロップステアリングが何を主張しているか、研究で何が分かったか、企業による唯一の試験が何を示したかを扱います。後編では、タイの雨季の湿度が高い栽培室での問題と、センサーや鉢の重さでドライバックを自分で測る方法を扱います。

クロップステアリングの狙い

クロップステアリングでは、栽培サイクルを通して培地の2つの数値を意図的にコントロールします。1つ目は培地のEC(電気伝導度)です。培地に溶けている肥料塩の量を示します。2つ目は体積含水率(VWC)です。その時点で培地の体積のうち何割が水かを示します。

目的は、植物を2つの方向のどちらかへ導くことです。「ベジタティブ(栄養成長寄り)」のステアリングでは、葉や茎の成長と、株全体の大きさを優先します。「ジェネレーティブ(生殖成長寄り)」のステアリングでは、生殖成長、つまり花と樹脂を優先させます。

基本の考え方は次のとおりです。培地ECを高め、ドライバックを大きくすると、植物は生殖成長に傾きます。ドライバックとは、その日の最後の灌水から翌日の最初の灌水までに、培地がどれだけ乾くかを指します。逆に、ECを低めにしてドライバックを小さくすると、栄養成長に傾きます。

使う道具は、培地に差し込むセンサーと、生育段階ごとに書き出した計画です。水は「ショット」と呼ばれる、量を決めた少量ずつに分けて何回も与えます。

一般的な生育段階別の計画

クロップステアリングは、サイクル全体を1つの設定で通す方法ではありません。生育に合わせて設定を切り替えていく手順として教えられています。

  1. フリップ前後(照明を開花用のスケジュールに切り替える時期)は、ジェネレーティブ寄りにします。目的はストレッチを抑えることです。ストレッチとは、開花初期の数週間に茎が急に伸びることです。
  2. 株の骨格をつくり、ボリュームを増やす時期は、ベジタティブ寄りにします。ドライバックを小さく、培地ECを低めにし、ショットの回数を増やします。
  3. 開花後期は、作物を「仕上げる」ために再びジェネレーティブ寄りに戻します。

この切り替えは、ふつう収量と品質のどちらを取るかの問題として説明されます。ベジタティブ寄りは重さを稼ぐため、ジェネレーティブ寄りは花穂の密度、樹脂、カンナビノイドを増やすためとされています。ただし、ジェネレーティブ寄りでは重さが減ることもあります。

クロップステアリングの試験は、どれもこの段階別の流れに照らして評価する必要があります。この手法は「ドライバックは大きいほど良い」と単純に言っているわけではないからです。

異論のない部分

土台にある植物科学は、十分に確立されています。園芸作物全般で、軽い水ストレスや根域の塩類濃度の上昇は、植物の資源配分を葉の成長から生殖成長へ移します。センサーの数値に基づいて灌水する方法も、施設園芸全般ですでに成熟した実用技術です。

この記事が疑問を向けるのは、その先の部分だけです。つまり、大麻で証明済みであるかのように語られている具体的な数値です。

やること:灌水の設定を変える前に、各栽培室がいまどの段階にあるかを書き留めてください。草丈、株の大きさ、花穂の密度のうち、何を変えたいのかも書いておきます。このメモがあれば、あとでその変更が狙いどおりの効果を出したかを確認できます。

公表された大麻の研究で分かったこと

開花期の乾燥ストレス(Caplan、Dixon、Zheng、2019年)

Caplan、Dixon、Zhengの3人の研究者が、2019年に学術誌 HortScience で発表した研究です。3人はコンテナで医療用大麻を栽培し、開花期に制御された乾燥ストレスを与えました。具体的には、養液灌漑(肥料を混ぜた水やり)を止め、正午ごろの葉の水ポテンシャルが約−1.5 MPaに下がるまで待ちました。

葉の水ポテンシャルは、植物がどれだけ強く水を引き上げなければならないかを示します。値がマイナスに大きいほど、植物は乾いた状態です。MPa(メガパスカル)は圧力の単位です。

研究者たちは、ストレスを与えた株と通常どおり灌水した株を比べました。

  • THCA濃度は約12%、CBDA濃度は約13%高くなりました。THCAとCBDAは、生きた植物がつくるTHCとCBDの酸型です(カンナビノイドを参照)。
  • 栽培面積あたりの収量は、THCAで約43%、CBDAで約47%高くなりました。

著者らは、他の栽培品種(カルティバー)やケモタイプでは結果が異なる可能性があると注意しています。ケモタイプとは植物の化学的なタイプのことで、たとえばTHC優位型やCBD優位型があります。

この結果は、クロップステアリングが想定する方向と一致しています。サイクル後半の水ストレスによって、カンナビノイドの生産量が増えました。

養液のECを高くした場合(Allred、Fatzinger、Bugbee、2025年)

Allred、Fatzinger、Bugbeeが、2025年に Journal of Cannabis Research で発表した研究です。2つの医療用品種で、浸透圧ストレスをステアリングの手段として使えるかを検証しました。浸透圧ストレスとは、塩類濃度を上げて、根が水を吸いにくくすることです。

施肥の処理は3通りでした。ECの単位は一般的なmS/cmです。

  • 対照区:4 mS/cm
  • 常に8 mS/cm
  • 短日(開花用の照明スケジュール)の最初の4週間は8 mS/cm、その後は4 mS/cm

ECを高くした処理では、株の高さが約15%低くなりました。品種と処理の組み合わせによっては、花の収量も約20%減りました。THCとCBDには有意な変化はありませんでした。著者らは、収量を減らさずに株を小さくするのは難しいと結論づけています。

栄養と植物の化学成分(イスラエルのBernsteinのグループ)

イスラエルのBernsteinが率いる研究グループは、医療用大麻について管理された条件での研究を発表しています。これらの研究は、ミネラル栄養が植物のカンナビノイドやテルペンの組成をどう左右するかを示しています。テルペンは植物の香り成分です。一例として、窒素の供給量に関する研究があります(Saloner and Bernstein, 2021, Industrial Crops and Products)。

これらの研究が示していないこと

どの研究も、メーカーが示すしきい値(決まった培地EC、夜間10%のドライバック、特定のショット量)を裏付けていません。

  • Caplanのチームは、1回の乾燥期間中の植物の水ポテンシャルでストレスを測りました。毎晩のドライバックの割合は使っていません。
  • Allredのチームは、培地ではなく養液のECを設定しました。また、ECを高くすると収量が減ることを示しました。

数値の本当の出どころ

出どころをたどれた具体的な推奨値は、どれもメーカーのトレーニング資料に行き着きました。そのメーカーは、AROYA/Addium、Grodan、TSRgrow、Front Row Ag、Growlinkです。たどった先が、これらの資料をもとに作られた計算サイトだった例もあります。これらの企業は、培地センサー、培地、灌水コントローラー、養液灌漑システムを販売しています。

だからといって、その推奨が間違っているわけではありません。これらの企業は、大麻の灌水について多くの大学より多くの現場データを持っている可能性があります。資料の多くも丁寧に作られています。一方で、この手法がうまくいってほしい商業上の理由があるのも事実です。

本当の問題は、独立した第三者がその数値を再現していないことです。査読、つまり発表前に独立した専門家がチェックする手続きも受けていません。それなのに、栽培者の間では確立した事実のように繰り返されています。

やること:誰かが決まった「ジェネレーティブEC」の値を挙げたら、4つのことを確認してください。どの試験か。どの品種か。どの培地か。どんな結果を測ったのか。答えがトレーニング用のページで止まるなら、その数値は目標ではなく、試してみる候補として扱います。この記事のために調べた限りでは、どれもトレーニング用のページで止まりました。

訳者注:タイ語の栽培グループや販売者とのチャットで見かける数値にも、同じ4つの質問を使ってください。広く共有されている数値が、誰かが試した数値だとは限りません。

ドライバックを検証した唯一の公表試験

実施者と方法

培地メーカーのGrodanが、種子会社のRoyal Queen Seedsと共同で行った試験です。場所はカナダ・ケベック州のCRIC Labsです。株はストーンウールで栽培し、2025年8月13日に収穫しました。

試験は要因配置法で行われました。これは、すべての要因の組み合わせを試す方法です。3つの要因にそれぞれ2つの設定があり(2×2×2)、全部で8つの区になります。

  • 品種:Quantum Terp F1 または Gaia F1
  • 管理作業:定期的に実施 または なし
  • 夜間のドライバック:小 または 大

各区は6株でした。

各設定の意味は次のとおりです。

  • 管理作業は、キャノピー(株の上部の葉や枝の層)に対して予定どおり行う作業です。除葉(大きな扇葉を取り除くこと)、使える花がつかない下部の枝の剪定、トレーニング(茎を曲げたり結んだりすること)が含まれます。「管理なし」の株には、どれも行いませんでした。
  • ドライバックは、その日の最後の灌水から翌日の最初の灌水までの、培地の含水率の低下です。公表された報告には、「小」と「大」の具体的な数値が書かれていません。そのため、2つの設定にどれだけ差があったのかも、メーカーの目標値と比べてどうなのかも分かりません。
  • この試験では培地ECを検証していません。2品種で、管理作業とドライバックだけを検証しています。

結果

  • どちらの品種でも、最も収量が多かったのは「管理なし×ドライバック小」の組み合わせでした。乾燥・トリム後の花が、1株あたり392 gと396 gでした。
  • 「管理作業を定期的に実施」した区は、どの比較でも収量が少なくなりました。
  • 結果は一様ではありませんでした。Gaia F1で管理作業を定期的に実施した区では、ドライバック大のほうがドライバック小より収量が多くなりました(299 g対249 g)。

結果の読み方

ドライバックが小さいほうが重さが出た、という結果は、ベジタティブ寄りのステアリングで本来期待される効果です。この結果だけでは、段階別の計画が否定されたことにはなりません。

この結果から言えるのは、この2品種では、ジェネレーティブなドライバックで収量が上がるという主張が支持されなかった、ということです。4つの比較のうち3つで、ドライバックを大きくしても花は増えませんでした。

THCは測定値ではなく、順位でしか報告されていません。しかも、その順位は2品種で逆の傾向でした。そのため、ジェネレーティブ寄りのステアリングに品質面の利点があるかどうかについて、この試験からはほとんど何も言えません。

訳者注:この試験で測ったのは、収量、THCの順位、テルペンです。カビについては報告されていません。湿度の高いタイの栽培室では、花穂のまわりの風通しを良くして花穂の腐敗(灰色かび病)のリスクを下げるため、葉を間引くことがよくあります。キャノピーの作業を省いて収量が増えても、このリスクと比べて判断する必要があります。栽培室全体に取り入れる前に、少数の株で試してください。

この試験を灌水方法の根拠にしない理由

  • 学術誌に掲載されておらず、DOIもなく、査読も受けていません。DOIとは、公表された論文に付く恒久的な識別番号です。費用を出した企業の1社が、ブログ記事として公開しただけです。詳細を確認できる独立した情報源は見つかりませんでした。
  • 培地メーカーと種子会社が費用を出しています。
  • THCは「相対的な値」でしか報告されておらず、測定値がありません。
  • テルペンのデータは1サンプルだけです。著者ら自身も、一般化すべきではないと述べています。
  • 8区で各6株という規模は、本格的な試験ではなく予備試験です。
  • ドライバックの数値が報告されていないため、結果を目標値に置き換えることができません。

エビデンスの全体像

  • 多くの数値が自信をもって語られていますが、その裏付けとなる試験はたどれません。
  • 査読を受けた少数の研究は、ストレスを利用したステアリングの大まかな方向性は支持していますが、具体的なしきい値は支持していません。そのうち1件は、高いECで収量が減ることを示しています。
  • 査読を受けていない小規模な企業試験が1件あり、収量のためにドライバックを大きくすることを支持していません。

まとめると、これらの数値に基づいて灌水方法を固定する根拠としては不十分です。

やること:この試験を理由に、灌水方法をどちらの方向にも変えないでください。自分でドライバックを試す場合は、各区の実際の数値を、VWCの値(%ポイント)か鉢の重さで記録してください。企業の試験を役に立たなくしているのは、まさにこの数値が抜けていることです。

訳者注:タイや東南アジアの栽培者にとって、クロップステアリングで得られるものと、始め方は次のとおりです。

  • 得られるもの:測定に基づいて同じように繰り返せる灌水方法です。自分の株でうまくいけば、草丈や仕上がりをある程度コントロールできます。
  • ここでの適用:メーカーの数値は、タイの栽培室、品種、培地では誰も検証していません。さらに雨季には別の問題も加わります。これは後編で扱います。
  • 始め方:ベンチ1台分か数株だけで変更を試してください。残りの株はいつもの方法のまま比較用にし、1サイクルを通して比べます。

参考文献

  • Caplan D, Dixon M, Zheng Y (2019). Increasing inflorescence dry weight and cannabinoid content in medical cannabis using controlled drought stress. HortScience 54(5): 964–969. hort
  • Allred J, Fatzinger B, Bugbee B (2025). Crop steering through osmotic stress can reduce height but reduced yield in medical Cannabis. Journal of Cannabis Research 7: 92. Client Challenge
  • Saloner A, Bernstein N (2021). Nitrogen supply affects cannabinoid and terpenoid profile in medical cannabis (Cannabis sativa L.). Industrial Crops and Products 167: 113516.
  • RQS Editorial Team (Royal Queen Seeds) (2026年7月10日). Plant Maintenance and Overnight Dryback: Effects on Cannabis Yield, THC and Terpenes(企業ブログ。試験はGrodanがRoyal Queen Seedsと共同でケベック州のCRIC Labsにて実施。査読なし). Plant Maintenance and Dryback: Cannabis Yield and THC - RQS Blog
  • メーカーのトレーニング資料の例:AROYA, Mastering dry backs: The key to optimizing yields and plant quality, Mastering dry backs to optimize yield and quality | AROYA; TSRgrow, Crop Steering with Irrigation: Dry Backs, Shots, EC, and more, Crop Steering with Irrigation: Dry Backs, Shots, EC, and more

この記事は、居住地で合法的に活動する読者に向けた園芸技術の情報です。大麻栽培の規制は国によって異なります。タイでは、大麻の花穂は保健省告示「規制ハーブ(大麻)」仏暦2568年に基づく規制ハーブです。この告示はタイ伝統医療知識保護振興法(仏暦2542年)に基づいて出され、2025年6月26日から施行されています。花穂を販売できるのはPT 33処方箋がある場合だけで、処方は最長30日分です。花穂の広告とオンライン販売は禁止されています。大麻の花穂の研究、輸出、販売、加工には許可が必要です。この記事の内容は法的助言ではありません。

後編はこちら:数字で見るクロップステアリング:雨季の湿度、ドライバックの測り方、自分なりの目標値の作り方(後編)