ヘンプ栽培:土壌、窒素、病害虫、収穫と乾燥、タイの作付けカレンダー、THC検査(後編)

ヘンプがよく育つのは、圃場・窒素の量・播種日・THC検査の計画が、すべて作物タイプに合っているときです。後編では、土壌と養分、輪作、病害虫、CBDヘンプの収穫と乾燥、タイでのヘンプ栽培、各国のTHCサンプリングの方法を説明します。

ヘンプには3つの作物タイプがあります。茎を利用する繊維用ヘンプ、種子を利用する穀物用ヘンプ、雌花に含まれるカンナビノイドを利用するCBDヘンプです。前編で説明したとおり、タイプによって株間、品種、収穫時期が異なります。産業用ヘンプとは、THCが法定基準値未満の Cannabis sativa L. のことです。THCは酩酊作用のあるカンナビノイドです。

タイの法規に関する注意: タイでは、葉と花穂(花のついた先端部)のTHCが1.0%未満のものをヘンプといいます。ヘンプ抽出物のTHCは0.2%以下でなければなりません。ヘンプの花はTHC濃度にかかわらず規制ハーブです。根拠は、2025年6月26日に施行された保健省告示「規制ハーブ(大麻)」仏暦2568年です。花はPT 33(ภ.ท.33)処方箋がある場合にのみ販売でき、上限は30日分です。花の広告とオンライン販売は禁止されています。大麻管理法案(Cannabis Control Act)はまだ成立していません。→ タイで規制ハーブとなった大麻:仏暦2568年告示で認められること・禁止されること

本記事は後編です。前編:https://asiannabis.com/t/1371


3. 圃場、土壌、養分

3.1 土壌と排水

ヘンプは平均的な地力の土でも育ちます。ただし、収量は次の3点で決まります。

  • pH: 3つの作物タイプとも 6.0–7.5 程度が目安です(University of Wisconsin Extension による。米国の有機農業研究機関 Rodale Institute が引用)。pHが6を下回る場合は、アルミニウムやマンガンの過剰害がないか確認してください。pHが高いと、土に十分あっても葉に鉄や亜鉛の欠乏症状が出ることがあります。高いpHが養分の吸収を妨げるためです。
  • 排水: 最も重要な点です。タイの高地研究開発機構(HRDI:Highland Research and Development Institute)は、タイのヘンプ栽培の主な問題として根腐れ・茎腐れを挙げています。原因は、湿った土や水が溜まった土です。最も危険なのは播種後30日間です。水はけのよいローム(壌土)か砂壌土を選び、雨季には排水溝を掘ってください。→ 大麻の根腐れ病、PythiumとFusarium:原因となる病原体、症状、確定診断の方法(前編)
  • 雑草: 密に植えた繊維用ヘンプは、キャノピーが閉じると日陰をつくって雑草を抑えます。株間の広いCBDヘンプではキャノピーが閉じません。そのため最初の数週間は、手作業か機械での除草、またはマルチが必要です。

やること: 播種前に土壌pHを測ってください。最初の大雨のあとには圃場を歩いて回ります。1日以上水が引かない場所は、排水するか作付けを避けます。そこの苗が最も腐りやすいからです。

3.2 気候

ヘンプの種子が発芽するには、地温が8 °Cより高い必要があります。東南アジアの低地では問題になりません。苗は霜で枯れるため、温帯の国やタイの標高が最も高い山地では注意が必要です。CBDヘンプでは、開花期に高い湿度が長く続くと灰色かび病(ボトリティス)の危険が高まります。

3.3 作物タイプ別の窒素とその他の養分

下の表の数値は、互いに整合する一組の目安です。自分の圃場の土壌診断結果に合わせて調整してください。

作物タイプ 目標pH 総窒素量(N) 出典
繊維用 6.0–7.5 最大約150 kg N/ha(米国ペンシルベニア州 Kutztown の試験で、カバークロップなしの場合の最適量) Rodale Institute
穀物用 6.0–7.5 約100 kg N/ha(同じ試験) Rodale Institute
CBD 6.0–7.5 定まった最適量はなし。ヘンプ全般の目安は50–100 lb/ac(約56–112 kg N/ha)で、数回に分けて施し、20–25%を植え付け時に施す University of Delaware Extension(米国)
  • 開花期の窒素(CBDヘンプ): 研究結果は一致していません。環境を管理した施設での研究では、窒素が少ないときにカンナビノイド含量が最も高くなりました。一方、標高が高く乾燥した砂漠地帯の圃場試験では、カンナビノイド含量を左右したのは品種と収穫日でした。窒素の量は関係しませんでした。実際の栽培では、窒素の大部分を栄養成長期に与え、シーズン後半の多量施用は避けるのが現実的です。
  • マメ科のカバークロップ: カバークロップとは、販売用ではなく、土を肥やして守るために育てる作物です。マメ科植物は空気中の窒素を土に取り込みます。Kutztown の試験では、ヘンプの前にヘアリーベッチやウィンターピーを育てると十分な窒素が供給されました。追加の肥料は必要ありませんでした。
  • リン、カリウム、硫黄: 土壌診断の結果に従って施します。雨で養分が強く流れ出た熱帯の土壌では、硫酸塩を含む肥料も必要になることがあります。

訳者注:ヘアリーベッチとウィンターピーは温帯の作物です。タイの暑さでどう育つかは、これらの試験では調べられていません。地域に合ったマメ科植物で同じ効果が得られる可能性はあります。ただし、タイでヘンプの前作として試験された例はまだありません。まず小さな区画で試し、肥料を施した区画と比べてください。カバークロップで肥料の一部を本当に減らせるかがわかります。

やること: シーズン前に土壌診断を受けてください。表から自分の作物タイプに合った窒素量を決めます。CBDヘンプでは、窒素の大部分を開花前に施します。


4. 輪作と土壌の健康

ヘンプは、輪作に組み込む作物の一つとして使うと最も効果を発揮します。

  • 雑草が減る: 繊維用ヘンプの密なキャノピーのおかげで、次の作物の雑草が少なくなります。
  • 病気の連鎖を断つ効果(限界あり): ヘンプは、アブラナ科作物の病気である根こぶ病(Plasmodiophora brassicae)にはかかりません。しかし、菌核病(Sclerotinia sclerotiorum)にはかかりやすい作物です。菌核病はヒマワリ、ダイズ、キャノーラも侵します。これらの作物がすでに入っている輪作では、ヘンプを加えても病気の連鎖は断てません。
  • 重金属: ヘンプが重金属を多く吸収するのは、主に汚染された土地で育てた場合です。植物を使って土壌を浄化する研究(ファイトレメディエーション)では、高濃度に汚染された土壌が使われました(Linger et al., 2002; Rheay et al., 2021)。そうした土地で採れた作物は、食品や抽出の原料には向きません。
  • 種子の殻: 殻を土にすき込んでも、窒素はあまり増えません。タンパク質3%の殻に含まれる窒素は約0.48%で、殻 1トンあたり窒素約5 kg にすぎません。

温帯の輪作としては、穀類 → ヘンプ → 穀類または油糧作物という組み合わせが、ヨーロッパで詳しく記録されています(Struik et al., 2000)。

タイでは、フォトピリオド型のヘンプは 雨季 の畑作の作期に入ります(第7章)。そのため、雨季に育てる他の畑作物と土地を取り合うことになります。排水の悪い水田は避けてください。乾季の栽培は、オートフラワー品種を使い、灌漑ができる場合に限られます。

やること: 過去3年間にその圃場で育てた作物を書き出してください。ヒマワリ、ダイズ、キャノーラがあれば、ヘンプで菌核病を断つ効果は期待できません。工場や鉱山として使われていた土地なら、食品用や抽出用に栽培する前に重金属を検査してください。


5. 病害虫

ヘンプボーラー(Grapholita delineana) と ヘンプノミハムシ(Psylliodes attenuatus) の記録は、主にヨーロッパと中央アジアのものです。

ナミハダニ(Tetranychus urticae) は、高温で乾燥した施設内で育てるCBDヘンプの主要害虫です。ハダニを食べる捕食性ダニ(Phytoseiulus persimilis、Neoseiulus californicus)は、ハダニが増える前に放すと最も効果があります。増えてから放しても効果は落ちます。→ ハダニとアザミウマ:大麻における同定、生活環、および生物的防除

灰色かび病(Botrytis cinerea) は、密に詰まったCBDヘンプの花で最も大きな被害を出します。予防には、株間を広く取り、下葉を取り除いて風通しを良くします。開花が始まったら、株の上から水をかけないでください。→ 灰色かび病(ボトリティス):大麻の花穂を静かに蝕むキラー — 予防、発見、および緊急対応

根腐れ・茎腐れ は、タイの圃場で最大の問題です。HRDIは、種子を Streptomyces(土壌細菌の一種)または Trichoderma harzianum(有用なカビの一種)でコーティングしました。その結果、播種15日後の苗の枯死が、コーティングしない種子と比べて最大でそれぞれ77%、49%減りました。大雨が続く直前の播種は避けてください。→ 菌根菌、Trichoderma、Bacillus、Pseudomonas:根の有用微生物の働きと、タイの条件で使い始める方法

訳者注:タイでは、農業局(กรมวิชาการเกษตร)に登録された農薬と生物資材だけを使い、ラベルの指示に従ってください。Trichoderma、Streptomyces、捕食性ダニの製品は、購入前に農業局での登録を確認します。登録はGACP(適正農業・採取規範)監査での証拠になります。偽物や汚染された製品をつかむ心配もなくなります。

やること: CBDヘンプでは、栄養成長期から週1回、葉の裏にハダニがいないか確認してください。早めに捕食性ダニを放すためです。露地では、大雨が続く直前ではなく、大雨の時期が過ぎてから播種します。


6. CBDヘンプの収穫と乾燥

6.1 収穫適期の見極め方

花が熟すにつれて、CBDとTHCは一緒に増えていきます(前編 2.2節)。そのため、収穫適期は花の見た目ではなく、ラボの検査で決めます。

THC基準値が0.3%の地域について、NC State(米国ノースカロライナ州立大学)は、基準適合を確認するサンプルを遅くとも花芽形成から約2週間以内に採るよう勧めています。花芽形成とは、花の最初の兆候が現れることです。米国農務省(USDA)の規則では、サンプル採取から30日以内に収穫しなければなりません。

承認されたラボの検査結果は、作物が基準値内であることを示す記録です。花が規制品になっている国で、花を売ってよいという許可ではありません。タイでは、ヘンプの花は引き続き規制ハーブです(冒頭の囲みを参照)。THC検査の結果をどのラボのものなら受け付けるか、許可を出す当局に確認してください。→ 分析証明書(CoA)の読み方

6.2 乾燥

花は、水分が約12%未満になるまで素早く乾燥させる必要があります。灰色かび病と品質の低下を防ぐためです。湿度の高い東南アジアの気候では、屋外での自然乾燥は当てになりません。送風式の乾燥室や専用の乾燥機が必要です。乾燥に時間がかかると、干し草のような香りと味になり、カビによるロスも増えます。タイでは、ヘンプの花の取り扱い・保管・販売は規制ハーブの規則に従います。→ 外気湿度85–95%での大麻の乾燥:タイの5つのセットアップをコスト比較・ランク付け

やること: 保管する前に、乾燥バッチごとにサンプルの水分を測ってください。結果はバッチ記録に一緒に残します。乾季だけでなく雨季にも、乾燥設備で12%まで下げられているかがわかります。


7. タイのヘンプ:規則と現場の実際

許可制度。 民間でのヘンプ栽培の許可制度は、仏暦2563年(2020年) の省令から始まりました。ヘンプに限って第5類麻薬の生産・輸入・輸出・販売・所持の許可を定めた省令で、2021年1月29日に施行されました。許可の目的には、教育、研究、育種、認証種子の生産などがありました。種子は農業局への登録によって認証され、THC検査結果はタイ食品医薬品局(Thai FDA)に提出されました。

品種。 タイの認証品種は、HRDIが王室プロジェクト財団(Royal Project Foundation)と共同で育成した国内系統 RPF1、RPF2、RPF3、RPF4 です。いずれも繊維用に育成され、2011年(仏暦2554年)に農業局に登録されました。THCは約0.2%と報告されています。RPF1は標高1,000 mを超える高地に、RPF3は標高500–1,000 mに向いています。

栽培地域。 報道では、メーサイ(チェンライ県)、ポッププラ(ターク県)、ソンクウェー(ナーン県)がヘンプの産地として挙げられています。特にポッププラのモン族の人々は、昔から布を織るためにヘンプを育ててきました。

北タイでのフォトピリオド型RPF系統の作付けカレンダー(HRDI):

播種時期 生育の様子
3–5月(水を確保できる場所のみ) 栄養成長期が長く、草丈が約5 mに達することがあるため、株間を広く取る必要がある
6–7月(推奨。HRDIの一般的な適期は5–7月) 栄養成長が約3か月続き、9月下旬–10月に開花する。採種用の株間は約1 × 1 m
8–2月(日が短い時期) 栄養成長期が短く、早く開花する。密植(75 × 50 cm、またはそれより密)が必要で、収穫できる植物の量は少ない

このため、乾季はフォトピリオド型の繊維用ヘンプには向きません。日が短いと早く開花してしまい、茎の収量が少ないままになります。乾季に栽培するなら、オートフラワー品種と灌漑 の両方が必要です。大雨の直前の播種は避けてください。

やること: 圃場の標高に合わせてRPF系統を選んでください(1,000 mを超えるならRPF1、500–1,000 mならRPF3)。播種は6–7月に行います。この時期に播けば、開花まで約3か月の生育期間を確保できます。


8. THC基準値、サンプリング、記録

8.1 国別のTHC基準値

国・地域 植物体のTHC基準値(乾燥重量) 備考
欧州連合(EU) 0.3%(2023年から。それ以前は0.2%) 認証品種のみ
米国 総THC 0.3%(連邦) 州や先住民族(Tribal)の計画によって異なる
カナダ 0.3% —
タイ 葉と花穂で1.0%。抽出物は0.2%以下 花は規制ハーブ。法案の成立で基準値が変わる可能性あり
スイス 1.0% —
英国 0.2% —

やること: 輸出を考えているなら、タイの1.0%だけでなく、輸出先の国の基準値に合わせて検査してください。タイで合法な作物でも、基準値が0.3%や0.2%の市場では不合格になることがあります。→ ヘンプとしてタイから輸出できるもの

8.2 公式サンプルの採り方

  • 欧州連合(Delegated Regulation (EU) 2022/126、Annex I): 手順A(Procedure A) では、検査官が申告されたヘンプ栽培面積の30%以上を検査します。サンプルは、開花開始の20日後から開花終了の10日後までに採ります。1つのサンプルは、雌花の花穂を1つ以上含む長さ30 cmの部分です。これを 1圃場あたり50株 から1株ずつ採ります。事前承認制度がある場合は 手順B(Procedure B) を使い、面積の20%以上を検査します。サンプルは開花終了後の10日間に採り、1圃場あたり200株 の上部3分の1を集めます。
  • 米国(7 CFR 990.24 とUSDAのサンプリングガイドライン): 認定されたサンプリング担当者がサンプルを採ります。時期は収穫予定日の30日前以降で、花穂の先端5–8インチ(約13–20 cm)を切り取ります。州や先住民族の自治政府(Tribe)は、代わりに成果ベースの方法を使うこともできます。その場合は、株のTHCが0.3%を超えないことを95%の信頼度で示せる方法でなければなりません。1ロットあたり何株からサンプルを採るかは、適用される計画によって異なります。
  • タイ: 許可を出す当局のサンプリング指示に従ってください。

圃場全体の株を1つのサンプルにまとめないでください。管理の連鎖(chain of custody) の記録を残します。各サンプルを誰がいつ採り、ラボに届くまで誰が扱ったかを、署名付きで記録するものです。基準値が0.3%なら、自主目標を 約0.2% に設定してください(約33%の余裕)。通常の検査結果のばらつきで基準値を超えるのを防ぐためです。

8.3 記録

次の記録を、少なくとも許可の条件で求められる期間は保管してください。

  • 区画ごとの品種とロット番号を書き込んだ圃場地図
  • 種子の請求書と種子証明書
  • 肥料やその他の投入資材の記録
  • サンプリング記録とラボの分析証明書(CoA)
  • 区画ごとの収量

検査官は、購入した種子の量と作付け面積を照らし合わせることがあります。記録が一致していれば、種子が他へ流れていないことを証明できます。

やること: 播種前に、この5項目を見出しにしたノートかスプレッドシートをシーズンごとに1つ用意してください。作業のたびに記入すれば、検査の前に慌てて作り直すよりずっと楽です。→ 大麻の適正農業・採取規範(GACP):記録、農場の立地、栽培、乾燥(前編)


まとめ

  • 作物タイプ(繊維用、穀物用、CBD)は、利用できる加工先と買い手に合わせて選ぶ。
  • 自分の地域の緯度と標高に合った認証品種を選ぶ。
  • pHは6.0–7.5に、窒素は3.3節の範囲内に保つ。
  • 花が熟すにつれてTHCが上がるため、CBDヘンプは早めに検査する。
  • 北タイでは、フォトピリオド型のRPF品種を雨季の初めに、水はけのよい圃場に播く。
  • 乾季は、オートフラワー品種だけを、灌漑ができる場合に限って栽培する。
  • タイのヘンプの花は引き続き規制ハーブであり、大麻管理法案(Cannabis Control Act)が成立すれば法定基準値が変わる可能性がある。

タイでRPF系統を育てたり、CBDヘンプを検査したりした経験はありますか。他の栽培者が比べられるよう、播種日、収量、検査結果をこのトピックの下で共有してください。

参考文献

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