安全な高温堆肥づくり:グアノの粉じん、ヒストプラズマ症、類鼻疽、呼吸用保護具の選び方(後編)

乾燥したグアノ(海鳥・コウモリの糞肥料)や乾燥した家畜の糞には、カビの胞子などの粉じんが含まれていることがあります。こうした粉じんは肺を傷めます。米国の保健当局は、大量の鳥やコウモリの糞を片付ける作業を高リスク作業としています。そのうえで、使うべき呼吸用保護具も具体的に示しています。タイと東南アジアでは、特に注意が必要な病気が2つあります。糞から感染するヒストプラズマ症と、湿った土から感染する類鼻疽(るいびそ)です。後編では、この2つのリスクと呼吸用保護具の選び方を説明します。あわせて、生産者や肥料の小分け業者が作業手順書に書いておくべき対策も紹介します。

前編では、高温堆肥化のしくみ、病原体を死滅させるための温度と時間の基準、堆肥化が必要な糞の種類を扱っています。

本記事は後編です。前編:https://asiannabis.com/t/1399

1. ヒストプラズマ症:乾燥した糞に含まれる胞子のリスク

乾燥した鳥やコウモリの糞には、Histoplasma capsulatum というカビが含まれていることがあります。このカビの胞子を吸い込むと、肺から始まる感染症「ヒストプラズマ症」になります。乾燥したグアノがたまっている場所をかき乱すと、胞子が空気中に舞い上がります。これは労働衛生上の危険として知られており、対策をまとめた指針も公表されています。

米国疾病予防管理センター(CDC)は、労働安全を担う研究機関NIOSH(米国国立労働安全衛生研究所)を通じてこの問題を扱っています。両者の共同ウェブページ Personal Protective Equipment | Histoplasmosis(2024年1月18日付)では、次の2つを高リスク作業としています。

  • 大量にたまった鳥やコウモリの糞を片付ける作業
  • コウモリの糞がある洞窟やトンネルに入る作業

ヒストプラズマ症はタイの風土病です。つまり、タイ国内で日常的に発生している病気です。タイは、ヒストプラズマ症の風土病としての発生が記録されているアジアの国のひとつです。2022年には、ナコーンシータンマラート県で集団感染があったとタイのメディアが報じました。最初に報告したのはウィチャイユット病院の呼吸器科医です。ハイキング中のグループ10人のうち7人が発病しました。コウモリがねぐらにしていた木の洞(うろ)に、少しの間入っただけでした。糞に触れる必要すらありませんでした。洞の中の空気を吸っただけで感染したのです。

この地域で流通するグアノの多くは、洞窟で採取されています。CDCの指針では、コウモリの糞がある洞窟やトンネルに入ることは高リスク作業にあたります。洞窟やねぐらから直接グアノを採取する人は、その作業を高リスク作業として扱ってください。

やること: 農場や店舗で、乾燥した糞をかき乱す作業をすべて書き出してください。そのうち、洞窟やねぐらでの採取と大量の取り扱いには「高リスク」と印をつけます。

2. 高リスク作業についてCDCが推奨すること

上記の高リスク作業について、CDC/NIOSHのページは次の2つのどちらかを推奨しています。

  • 認定フィルター付きの電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)。 PAPRは、電池式のファンで空気をフィルターに通し、フードやマスクの中へ送り込む装置です。顔に密着しないルーズフィット型(フードやゆったりした顔面カバー)と、顔に密着するタイトフィット型(密閉マスク)があります。同ページによると、どちらの型にも使える認定フィルターはHE、PAPR100-N、PAPR100-Pです。
  • 100シリーズのフィルターを付けた全面形呼吸用保護具(フルフェイスマスク)。 目・鼻・口を覆うマスクで、フィルターを通して呼吸します。100シリーズのフィルターは米国の規格で最も等級が高く、N100、R100、P100と表示されています。捕集効率は99.97%です。

同ページは、N95などの使い捨て防じんマスクを最後の手段としています。その理由として、使い捨てマスクは「指定防護係数が10にすぎない」と述べています。また、その防護性能はPAPR(防護係数25〜50)や全面形の空気清浄式呼吸用保護具(防護係数50)の20%しかないとしています。PAPRも、100シリーズのフィルターを付けた全面形呼吸用保護具も手に入らない場合に限って使ってください。

屋外で土をかき乱す作業や農作業などの中リスク作業については、半面形呼吸用保護具の使用を検討するよう勧めています。これにはN95などの防じんマスクも含まれます。

やること: 書き出した高リスク作業ごとに、推奨される2種類のうちどちらを作業者に使わせるかを記入してください。

3. 呼吸用保護具の選び方:N95、PAPR、防護係数

指定防護係数(APF)は、呼吸用保護具を正しく着けたときに、吸い込む量をどこまで減らせるかを示す数値です。APF 10なら、周囲の空気に含まれる粉じんの約10分の1を吸い込むことになります。APF 50なら、約50分の1です。数値が大きいほど防護性能は高くなります。

主な種類は次のとおりです。

  • N95またはFFP2マスク。 呼吸する空気をろ過する使い捨てマスクです。FFP2は欧州の規格で、一般に米国のN95と同等とされています。顔にしっかり密着していなければ効果がありません。
  • 半面形呼吸用保護具。 鼻と口を覆うゴムまたはシリコン製の再使用型マスクで、フィルターを交換して使います。
  • 全面形呼吸用保護具。 目まで覆い、顔全体の周囲で密着します。100シリーズのフィルターと組み合わせれば、CDCが高リスク作業に推奨する2つの選択肢のひとつになります。
  • PAPR。 ファンがろ過した空気をフードやマスクに送り込みます。自分の力でフィルター越しに空気を吸う必要がないため、呼吸が楽です。

CDCが示すPAPRの「25〜50」という幅は、簡略化した数字です。米国労働安全衛生局(OSHA)は、呼吸用保護具の基準(29 CFR 1910.134、表1)で正確な数値を定めています。

呼吸用保護具の種類 OSHAが定めるAPF
ルーズフィット型顔面カバー付きPAPR 25
半面マスク付きPAPR 50
タイトフィット型全面マスク付きPAPR 1,000
ヘルメットまたはフード付きPAPR 25(メーカーが1,000を裏付ける試験データを持つ場合は1,000)

大量の乾燥グアノを扱う作業では、APF 25以上を基本ルールとします。 この根拠となる資料は、NIOSHの Histoplasmosis: Protecting Workers at Risk 改訂版(DHHS (NIOSH) Publication No. 2005-109、2004年12月)です。

作業に合わせた呼吸用保護具の選び方:

作業 最低限の防護
洞窟やねぐらでのグアノ採取、大量にたまった糞の片付け、大量の乾燥グアノの小分け APF 25以上:認定フィルター付きPAPR、または100シリーズのフィルター付き全面形呼吸用保護具。どちらも手に入らない場合に限りN95
加工済み乾燥グアノの袋を開けて使う APF 25以上。あわせて中身を湿らせ、静かに開封する
大量の乾燥鶏糞 最低でも顔に密着したN95/FFP2。グアノと同じ対策(第4章)をとればより安全
パーライトの袋を開けて使う 最低でも顔に密着したN95/FFP2。あわせて開封時に袋の中へ少し水を入れる
屋外で土をかき乱す作業、一般的な農作業 N95などの防じんマスクを含め、半面形呼吸用保護具の使用を検討する
湿った土、堆肥、糞 ゴム手袋と長靴を着用し、傷口を覆う(第6章)

タイトフィット型のマスクは、肌に密着しているときにしか効果がありません。密着部分にひげがあると、そこから空気が漏れ込み、フィルターを通らずに入ってきます。「顔に密着した」マスクとは、息を吸ったときにすき間ができないマスクのことです。

訳者注:タイではPM2.5の煙害の季節に多くの人が買うため、N95タイプのマスクは簡単に手に入ります。PAPRや全面形呼吸用保護具は、ふつう産業用の保護具を扱う業者を通じて販売されています。全面形呼吸用保護具は一般にPAPRより安いため、小規模な現場では現実的な第一候補になります。どちらも手に入らない場合は、ほかの方法でリスクを減らしてください。中身を湿らせる、屋外の風上側で作業する、一度に扱う量を減らす、といった方法です。N95は、CDCが言う最後の手段としてだけ使います。PAPRの電池は作業のたびに事前に充電し、停電に備えて予備の電池も用意しておいてください。

やること: 書き出した中で最もリスクの高い作業に合った呼吸用保護具を購入してください。作業の前には毎回、作業者全員のマスクの密着を確認します。

4. 大量のグアノを小分けするための作業手順書

この地域では、多くの肥料販売業者が大量のグアノを小分けしています。この作業には、簡易な防じんマスクでは不十分です。乾燥グアノを大量に注ぎ移すと、閉め切った部屋の空気中に粉じんが漂い続けます。次の対策を標準作業手順書(SOP)に書き込んでください。SOPとは、作業者全員が従う手順を一つずつ書いた文書です。

  1. 注ぎ移しや小分けをする全員に、APF 25以上の呼吸用保護具を着けさせる。 N95だけでは足りません。PAPRか、100シリーズのフィルター付き全面形呼吸用保護具を使います。目的: 粉じんに最も近い人に、最も強い防護を与えるためです。
  2. かき乱す前に、中身を軽く湿らせる。 目的: そもそも空気中に舞う粉じんを減らすためです。
  3. 局所排気換気を使う。 粉じんが発生する場所で空気を吸い出す設備のことです。設備がなければ、屋外の風上側で作業します。目的: 粉じんを作業者から遠ざけるためです。
  4. 使い捨ての作業服と手袋を着け、作業エリアを出る前に脱ぐ。 目的: 粉じんを事務所や車、自宅に持ち込まないためです。
  5. 作業中は、ほかの人をエリアに入れない。 目的: ヒストプラズマ症は、材料に触れなくても近くの空気を吸うだけで感染するからです。

訳者注:30〜35 °Cの気温の中で、作業服と全面マスクを着け続けるのはつらいものです。作業は涼しい早朝に行うよう予定を組み、粉じんのないエリアで休憩をとる時間も計画に入れてください。作業エリアは、ほかの従業員や客を含め、作業に関わらない人全員に対して立ち入り禁止にします。

やること: 上記5つの対策を1ページのSOPにまとめてください。大量のグアノを扱う人全員に、次の勤務の前にSOPの内容を教えます。

5. パーライトと乾燥糞の粉じん

ほかに2種類の粉じんも、同じSOPに含めてください。

  • パーライトの粉じんは、一般に「不快粉じん」(健康への害が比較的小さい粉じん)に分類されます。ただし製品によっては、結晶質シリカがわずかに含まれていることがあります。結晶質シリカは、吸い込むと有害な鉱物の粉じんです。安全データシート(SDS)を確認してください。SDSとは、製品の危険性と取り扱い方法をまとめた、供給元が発行する文書です。袋を開けるときは、中に少し水を吹きかけます。最低でも顔に密着したN95/FFP2を着けてください。
  • 乾燥鶏糞などの乾燥糞製品からは、微生物やエンドトキシンを含む粉じんが出ます。エンドトキシンは細菌の細胞壁のかけらで、吸い込むと肺を刺激します。最低でも顔に密着したN95/FFP2を着けてください。大量に扱う場合は、グアノと同じ対策をとるほうが安全です。

やること: 使っているパーライト製品すべてについて、供給元にSDSを請求し、保管しておいてください。パーライトと糞の保管場所の横には、水のスプレーボトルを置きます。

6. 類鼻疽:イサーンとラオスで注意すべき湿った土のリスク

Burkholderia pseudomallei は、類鼻疽を引き起こす細菌です。土の中や地表の水の中に生息しています。タイ東北部(イサーン)と隣国ラオスでは大きなリスクとなっており、患者は雨季に最も多くなります。主に切り傷や皮膚の傷口から体内に入ります。汚染された土や水を吸い込んだり飲み込んだりして感染することもあります。

糖尿病は、類鼻疽が重症化する最も重要な危険因子です。

湿った土、堆肥、糞を扱うときは、次のことを守ってください。

  • ゴム手袋と長靴を着ける
  • 傷口を覆う
  • 裸足や、足が水に浸かったままの状態で作業しない
  • 糖尿病がある人は、上記のすべてを厳守する

土に触れたあとに熱が出たら、医師の診察を受け、土に触れたことを伝えてください。そうすれば、医師が類鼻疽の可能性を検討できます。

訳者注:多くの農場では、雨季は土を配合したり堆肥を切り返したりする主な時期でもあります。手袋と長靴は堆肥の山のすぐ横に置き、「ちょっとだけだから」と素手・素足で作業する人が出ないようにしてください。従業員に糖尿病があるかどうかは、個別に、配慮をもって尋ねてください。そうすれば、本人にルールをきちんと説明できます。

やること: 湿った土や堆肥を扱う場所すべてに、ゴム手袋、長靴、防水絆創膏を置いてください。

7. 農場や店舗のための文書化した防護ルール

ここまでの内容をまとめると、材料ごとの防護ルールは次のとおりです。

  • 大量の乾燥グアノ: APF 25以上(PAPR、または100シリーズのフィルター付き全面形呼吸用保護具)。
  • 乾燥糞とパーライト: 最低でも顔に密着したN95/FFP2。パーライトは開封時に袋の中へ水を入れる。
  • 湿った土と堆肥: 手袋と長靴を着け、傷口を覆う。

やること: このルールを印刷し、グアノ、糞、パーライト、堆肥を保管・取り扱うすべてのエリアの入り口に貼ってください。

8. 確認されていること・されていないこと

確認されていること:

  • 鳥やコウモリの糞に関するCDC/NIOSHの呼吸用保護具の推奨と、第3章のOSHAの防護係数。
  • ヒストプラズマ症がタイの風土病であること。
  • 類鼻疽がタイ東北部に集中していること、そして糖尿病がその主な危険因子であること。

測定結果ではなく予防措置であるもの: パーライトについての助言(N95/FFP2と湿らせること)は最低限の対策です。シリカの含有量は製品ごとに異なるため、SDSを確認してください。

大量のグアノや糞を扱っている方は、自分のSOPで定めている呼吸用保護具をこのトピックの下で共有してください。上記のCDC/NIOSHの指針と比べてどうかも書いていただけると、ほかの生産者や小分け業者が自分の手順を見直す参考になります。

参考文献

本記事は、居住地の法律に従って合法的に活動する読者に向けた、園芸と労働安全に関する技術情報です。医学的な助言ではありません。鳥やコウモリの糞に大量にさらされたあとで呼吸器の症状が出た場合は、医師の診察を受け、糞にさらされたことを伝えてください。大麻の栽培に関する規制は国によって異なります。タイでは、大麻の花穂は保健省の規則で規制ハーブに指定されており、販売・加工・研究・輸出には許可が必要です。栽培を始める前に、お住まいの地域の法律を確認してください。本記事の内容は法的助言ではありません。