大麻の根腐れ病、PythiumとFusarium:予防、発生時の対処、熱帯環境での注意点(後編)

大麻の根腐れ病は、いくつかの病原体によって起こります。主なものは、卵菌類(水カビの仲間)の Pythium グループと、真菌の Fusarium と Rhizoctonia です [1]。Pythium の一部は現在 Globisporangium という名前に変わっています。これらは根域にすみつきます。葉がしおれる頃には、根はすでに大きく傷んでいます。Fusarium は一度株の中に入ると治せません。そのため、対策の中心は予防になります。後編では、根の病気の予防、発生したときの対処、高温多湿な東南アジアで病気が増える理由、根の健康を確かめる日々の点検について説明します。

本記事は後編です。前編:https://asiannabis.com/t/1263

1. 予防

1.1 水耕栽培での水温と酸素

水は温かいほど、溶存酸素(水に溶けている酸素)が少なくなります。酸素が足りない根は、病原体から身を守る働きが弱まります。さらに、Pythium の泳ぐ胞子(遊走子)は温かい水の中で最も活発に動きます。つまり、リザーバー(養液タンク)を低い水温に保てば、水耕栽培での Pythium の発生はほとんど防げます。

  • リザーバーの水温を18〜22 °Cに保ちます。 この温度帯なら水に溶ける酸素が増えて根に届き、病原体の動きも鈍くなります。
  • 室温のせいで水温がこの範囲を超える場合は、ウォーターチラー(養液を冷やす装置)を使います。
  • エアポンプとエアストーンを動かし続けます。 溶存酸素計で測り、6 mg/L以上を目標にします。こうすると根に酸素が届き続け、根が自分の身を守れます。
  • 水温は毎日確認します。 週末に一度水温が上がっただけでも病気が始まることがあります。症状が見えるのは数週間後です。

訳者注:タイの室温は30〜35 °Cあるので、チラーのないリザーバーは水温が高く、酸素も少ないままになります。チラーがあれば、Pythium が発生する主な条件を自分で抑えられます。テントや照明を買う前に、チラーを予算に入れておいてください。まずは2週間、1日2回リザーバーの水温を記録します。そのうち最も高かった値に合わせて、チラーの能力を選びます。チラーとほかの方法の比較は、トピック「リザーバー温度31 °Cでの水耕栽培:チラー、有用微生物、それともシステム変更か」で説明しています。

訳者注:停電すると、チラーもエアポンプも止まります。タイの多くの地域では、嵐のときに停電がよく起こります。エアポンプはUPS(無停電電源装置。停電中も機器を動かし続けるバッテリー装置)につなぐか、電池式のエアポンプを用意しておきます。その日の最高温度を記録できる温度計を使えば、留守の間に水温が上がりすぎたかどうかがわかります。停電があったら、その日のうちに水温とリザーバーのにおいを確認してください。そうすれば、根が腐り始める前に手を打てます。

1.2 排水と水やり

  • 土やココヤシ繊維(ココ)では、ランオフを15〜20%にします。 ランオフとは、与えた水のうち鉢底から流れ出る水の割合です。ランオフによって根のまわりの養液が入れ替わり、塩類がたまるのを防げます。また、ランオフのECとpHを測ると、根域で何が起きているかがわかります。
  • 水やりの間に、培地の表面を乾かします。 いつも湿ったままだと、根が酸欠になります。
  • 不織布ポットやエアプルーニングポットを使います。 根域に空気が入り、余分な水が抜けます。
  • 鉢は床から浮かせて置き、水がたまった場所に置いたままにしないでください。

やること: 1週間、与えた水の量と流れ出た水の量を測って比べます。ランオフが15〜20%になるまで、水やりの量を調整してください。

1.3 有用微生物

根にすみついて根を守る微生物がいます。次の製品には、こうした微生物が入っています。

生物 製品例 働き
Trichoderma harzianum RootShield, Trianum, Great White 根の表面に定着し、根の病原体を抑える
Bacillus subtilis Serenade, Cease 抗菌物質(リポペプチド)をつくる
Bacillus amyloliquefaciens Double Nickel, Hydroguard 根域に定着する。水耕栽培向けの製剤もある
菌根菌(AMF:アーバスキュラー菌根菌) Mykos, Great White, Dynomyco 根と共生し、養分の吸収と株の生育を助ける
Clonostachys rosea(旧名 Gliocladium catenulatum) Prestop 培地の中で病原体を抑える

これらは定植・移植のときに根鉢へ直接与え、その後はラベルの指示どおりに追加します。過酸化水素や塩素での処理と同時に使ってはいけません。 こうした殺菌剤は、病原体と一緒に有用微生物も殺してしまいます。両方にお金をかけても、どちらの効果も残りません。

大麻の根の病原体に対する生物的防除(バイオロジカルコントロール)は、まだ研究の途中で、確立した方法ではありません。効果は製品や製剤、培地、病原体の種類によって変わります。微生物は、温度管理、酸素、排水、衛生管理に重ねる対策の一つとして使ってください。これらの基本の代わりにはなりません。

訳者注:表の製品の多くは、アメリカやヨーロッパで作られています。これらの製品、またはタイ製の Trichoderma・Bacillus 製品のうち、どれがタイ農業局に登録され、タイで販売されているかは確認できませんでした。製品を探すときは、タイの正規代理店に問い合わせるか、「菌類・菌学」セクションでほかの栽培者に経験を聞いてください。まずは小さな規模で試します。同じ条件で、1つのバッチには製品を使い、もう1つのバッチには使いません。収穫時に根の色と病気になった株の数を比べれば、その製品が自分の栽培室で費用に見合う効果を出しているかがわかります。

1.4 清潔な培地

ヘンプの根腐れ病について、ハンドブック [1] の助言はほぼすべてが栽培管理に関するもので、内容も具体的です。

  • 清潔な鉢と、殺菌済みの培地を使います。
  • 培地に含まれる有機物の量を少なくします。
  • 道具や設備を消毒します。
  • 病気になった株の培養土は、絶対に再利用しません。

このハンドブックには、ヘンプの根腐れ病に対する化学的防除の推奨は載っていません [1]。つまり、この病気を治す散布剤は推奨されていないので、予防するしかないということです。

1.5 衛生管理

  • 作の合間に、鉢・トレー・道具を消毒します。 10%の漂白剤溶液(家庭用漂白剤1に対して水9)に10分間浸け、その後よくすすぎます。
  • 作の合間に、リザーバーの水を抜き、こすり洗いしてすすぎます。
  • 枯れた株や葉はすぐに取り除きます。 枯れた組織は、新しい胞子の発生源になります。
  • 栽培室の入口に足洗い槽(フットバス)を置きます。 汚染された土が靴について持ち込まれるのを防げます。

やること: 作が終わるたびに使う清掃チェックリストを作ります。次の植え付けの前に、すべての項目にチェックを入れてください。

2. 発生したときの対処

2.1 水耕栽培での Pythium

  1. リザーバーの水温を18〜20 °Cまで下げます。
  2. 溶存酸素を増やします。 エアストーンを足し、ポンプの能力を上げます。
  3. リザーバーの養液を交換します。 水を抜き、洗ってから入れ直します。
  4. 過酸化水素は緊急時だけに使います。 水中の遊走子を殺せますが、有用微生物も殺してしまいます。製品ラベルに書かれた濃度で1回だけ使い、日常的には使いません。
  5. 24〜48時間後に、有用微生物をもう一度入れます。 過酸化水素で失った微生物を増やし直すためです。
  6. 何度も再発する場合は、酸素がよく行き届くシステムに変えます。 循環式湛液水耕(RDWC)は、複数の根用バケツを1つの中央リザーバーにつなぐ方式です。外付けポンプとチラーを組み合わせれば、つながっていない単独のバケツよりも、病原体にずっと強くなります。

システムごとの違いは「水耕栽培大麻:DWC、NFT、ドリップシステム — 2026年比較ガイド」を参照してください。

2.2 土やココでの Pythium

  1. 水やりの回数を減らします。 次の水やりまでに、培地をもう少し乾かします。
  2. 排水をよくします。 培地が水を抱えすぎているなら、パーライトを増やします。
  3. Trichoderma または Bacillus の製品を培地に灌注します。
  4. 亜リン酸カリウム(「亜リン酸」の名前でも販売されています。製品例:ProPhyt、Fosphite、Agri-Fos)は、卵菌類に効く数少ない化学的な選択肢の一つです。根から吸収されます。使う前に、大麻への登録があるか、残留基準はどうなっているかを確認してください。観賞用植物に使える製品だからといって、人が口にする作物に使えるとは限りません。

訳者注:タイでは、農業局(กรมวิชาการเกษตร)に登録された製品だけを、ラベルの指示どおりに使ってください。大麻やヘンプへの使用で農業局に登録された亜リン酸カリウム製品は、確認できませんでした。購入前に「タイのGACPで大麻に合法的に散布できるもの:製品リストはないため、まず登録・ラベル・審査員に確認を」を読んでください。

2.3 Fusarium

Fusarium が株の中で水を運ぶ管(木部)に入り込むと、確実な治療法はありません。鉢に灌注した薬剤は、そこにいる菌まで届かないからです。

  1. ひどく感染した株は抜き取って処分します。 袋に入れて密封し、堆肥にはしないでください。
  2. 株を救おうとするのは、代わりのない遺伝系統の場合だけにします。 汚染された培地から抜き、枯れた根を切り落とします。Trichoderma 製品で灌注し、新しい殺菌済みの培地に植え直します。維管束萎凋(水を運ぶ組織で起こる萎凋)に対する成功率は低いので、標準的な方法ではなく、最後の手段と考えてください。
  3. 広がりを止めます。 その株に触れた道具をすべて消毒し、汚染された培地は建物の外へ運び出します。
  4. 次の作では、古い培地を使わず、必ず新しい培地を使います。

訳者注:タイでライセンスを持つ栽培者は、大麻の株をどう処分したかを記録しなければならない場合があります。感染した株を処分する前に、ライセンスを管轄する窓口に確認してください。処分の方法を記録と合わせるためです。

3. 東南アジアで根の病気が多い理由

東南アジアの栽培者が根の病気に悩まされやすい理由は3つあります。1つ目は、気温が高いため、リザーバーや培地の温度も上がることです。2つ目は、モンスーン期の大雨で屋外の地面が水浸しになることです。3つ目は、湿度が高いため葉からの蒸散が遅くなり、培地が長く湿ったままになることです。

  • 水耕栽培では、ウォーターチラーをシステムの中心的な設備と考えます。 室温が30〜35 °Cだと、チラーのないリザーバーは、病原体が好む「温かく酸素の少ない」状態のままになります。最初の作で失敗してからではなく、テントを買う前に予算に入れてください。
  • 屋外では、高畝や盛り土に植えます。 1週間雨が続いても、水が流れ出て、根が水に浸かったままになりません。「東南アジアにおける大麻の屋外栽培:熱帯環境下での季節、ストレイン(系統・品種)、病害虫管理」を参照してください。
  • 有用微生物は、温帯向けのガイドよりも頻繁に与えます。 熱帯の暑さでは、病原体だけでなく有用微生物の動きも速くなります。定植時に1回与えるだけでは、温帯の温室ほど根を守れません。
  • コンテナ栽培では、重い熱帯の土よりもココを選びます。 ココのほうが水はけも通気もずっとよくなります。
  • 屋外の作物には、最も暑い時期に遮光ネットをかけます。 根域の温度を下げるためです。
  • うどんこ病用の散布プログラムで Fusarium を防げるとは考えないでください。 2025年の実験室での試験では、チェンマイのヘンプ温室で花穂腐れを起こした Fusarium に対し、硫黄は菌の生育を11%しか抑えませんでした [2]。硫黄はうどんこ病の対策であり、Fusarium の対策ではありません。

やること: 雨季が始まる前に、すべての鉢と畝の水はけがよいか、リザーバーを18〜22 °Cに保てるかを確認してください。

4. 根の健康を確かめる日々の点検

点検項目 頻度 見るポイント
鉢の重さ 毎日 軽くなっているはずの鉢が重いままなら、排水に問題がある
根 毎週(弱って見える株) 色、手ざわり、におい
リザーバーのにおい 毎日(水耕栽培) 酸っぱいにおいやドブのようなにおいがしたら異常
溶存酸素 毎週(水耕栽培) 6 mg/L以上
水温 毎日(水耕栽培) 18〜22 °C
生育の速さ 常に ほかに理由がないのに急に生育が遅くなったら、根を確認する
ランオフのECとpH 水やりのたび 急な変化は、根の吸収が落ちているサインのことがある

やること: この表を印刷して栽培室に置き、測った値を栽培記録につけてください。株が病気になったとき、いつから問題が始まったのかがわかります。

5. 根の健康チェックリスト

  1. 温度管理: 水耕栽培ではチラー、暑い地域の土耕栽培では遮光と送風。
  2. 排水: 不織布ポット、十分なランオフ、水をためない。
  3. 有用微生物: 定植・移植時に与え、その後は計画的に追加する。
  4. 溶存酸素: 水耕栽培ではエアストーン、土耕栽培では通気のよい軽い培地。
  5. 衛生管理: 作の合間に鉢・道具・リザーバーを洗う。
  6. 観察: 水温は毎日、代表的な数株の根は毎週確認する。
  7. 緊急時の計画: 急な Pythium には過酸化水素、養液交換、有用微生物の再投入。Fusarium には株の抜き取りと処分。

高価な肥料、完璧な照明、高度な誘引・剪定の技術があっても、傷んだ根の埋め合わせはできません。お金と時間は、まず温度管理、排水、衛生管理にかけてください。病害虫対策の全体像については、「大麻の総合的病害虫管理 (IPM):5つの段階、隔離、粘着トラップ、巡回記録(前編)」を参照してください。

根腐れ病に対処した経験があれば、このトピックの下に書き込んでください。使っているシステム(水耕・土・ココ)、疑った病原体または確認できた病原体、行った対処、その結果を教えてください。質問も歓迎します。

参考文献

  1. Osterbauer, N.K., & Ocamb, C.M. Hemp (Cannabis sativa)-Root and Crown Rot. In: Pacific Northwest Plant Disease Management Handbook. Oregon State University, Washington State University and University of Idaho Extension(2026年3月改訂). https://pnwhandbooks.org/plantdisease/host-disease/hemp-cannabis-sativa-root-crown-rot
  2. Samarakoon, M.C., Chiu, C.-I., Chobyen, J., Iamwan, S., Bundit, A., Jeeatid, N., & Mukjang, N. (2025). Fusarium pernambucanum causing bud rot in industrial hemp (Cannabis sativa) in Thailand: pathogenicity and sensitivity to fungicide in vitro. Physiological and Molecular Plant Pathology.

本記事は、Asiannabis Community の病害虫管理シリーズの一つです。大麻の栽培が法律で認められている地域での教育を目的としています。タイでどのライセンスがどの活動に必要かについては、「タイのライセンスとコンプライアンス:どのライセンスで何ができるか、立入検査、停止処分と罰則」を参照してください。