ヘンプは、繊維、種子、CBD抽出物のどれかとして販売できます。どのルートでも、植え付けの前に専用の機械、ライセンス、買い手を確保しておく必要があります。3つのうち、抽出は最も多くの資金が必要で、ライセンスの条件も最も厳しいルートです。品質検査と法規制は、3つのルートすべてにかかわります。
後編では、CBDの抽出と精製、品質管理、タイ・欧州連合(EU)・その他の東南アジア諸国の規制、貿易書類、そしてこの地域でヘンプ事業を始められる分野を取り上げます。最後に短いチェックリストを付けています。
本記事は後編です。前編:https://asiannabis.com/t/1465
3. 抽出と精製
まずライセンスを確認する
タイで大麻またはヘンプの抽出物を製造するには、ライセンスが必要です。2026年4月26日に施行された「大麻又はヘンプ抽出物に関する省令 仏暦2569年」で、このライセンスの条件が厳しくなりました。THC含有量が0.2%を超える抽出物のライセンスを取得できるのは、現在は次の3種類の申請者だけです。外国人事業法(仏暦2542年)で「外国人」に当たらないタイの法人、国の機関、そしてタイ赤十字社です。2026年の変更点はタイの仏暦2569年(2026年)の2つの省令で解説しています。
このセクションは、自宅での抽出や無許可の抽出の手引きではありません。
訳者注:装置の見積もりを取る前に、まず自社の会社形態でこのライセンスを取得できるかを確認してください。外国人事業法で「外国人」に当たる会社は、THC 0.2%超のルートには進めません。
抽出方法の比較
| 方法 | 溶剤 | 主な生成物 | 初期投資額の目安(CAPEX)* | 主な注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 超臨界CO₂ | CO₂ | 精製向けのクリーンな粗抽出物 | 高い(数万〜数十万米ドル) | 複雑な高圧装置が必要。有機溶剤は残らない |
| エタノール | 食品グレードのエタノール | 粗抽出オイル | 低〜中(およそ1万米ドルから、数十万米ドルの前半まで) | 溶剤の回収と残留溶剤の検査が必要 |
| 炭化水素系(BHO)/ロジンプレス | ブタン・プロパン/なし | THC濃縮物 | — | 本記事で扱うヘンプ・CBDの範囲外 |
*CAPEXは設備投資(capital expenditure)の略で、装置の購入に最初にかかる費用のことです。数字はあくまで目安です。実際の見積もりは、処理能力、自動化の程度、現地で必要な認証によって変わります。
表に出てくる2つの用語を説明します。
- 超臨界CO₂: 高い圧力と温度に保った二酸化炭素です。この状態では、気体と液体の両方の性質を持ち、カンナビノイドを溶かし出せます。詳しくは大麻のCO2抽出をご覧ください。
- BHO(ブタンハッシュオイル): ブタンやプロパンを使って作る抽出物です。BHOとロジンプレス(溶剤を使わず、熱と圧力で搾る方法)はTHC濃縮物の製造に使うため、本記事では扱いません。
CBDの商業生産では、CO₂とエタノールが主流です。どちらもクリーンな粗抽出オイルが得られ、確立された工程でさらに精製できます。エタノール抽出については大麻のエタノール抽出で、各抽出方法の比較は大麻抽出の基礎解説で取り上げています。
粗抽出物の精製:工程ごとの流れ
各工程では、何かを取り除くか、何かを変化させます。
- ウィンタライゼーション(低温精製):ワックスを取り除く。 粗抽出物をエタノールに溶かし、約−20〜−40 °Cまで冷やします。ワックスと脂肪分(脂質)が固まるので、ろ過して取り除きます。
- 脱炭酸:カンナビノイドを活性化する。 植物が作るのは、酸の形をしたCBDAです。加熱するとCBDAからCO₂が抜け、CBDに変わります。乾燥した原料では、約110〜130 °Cで45〜90分という条件がよく報告されています。ただし、加熱しすぎるとカンナビノイドが分解するので、時間と温度は自分で検査して確かめてください。化学的なしくみは大麻エディブルと脱炭酸で説明しています。
- 蒸留:濃縮する。 ショートパス蒸留またはワイプドフィルム蒸留(どちらも真空蒸留装置の方式)で、カンナビノイドを濃縮してディスティレート(蒸留精製物)にします。濃度は一般に80〜90%以上です。この工程でテルペンとクロロフィルの大部分も除かれます。
- クロマトグラフィー:単一の成分に分ける。 分取HPLC(高速液体クロマトグラフィーを生産規模で行うもの)または遠心分配クロマトグラフィーで、CBDを微量カンナビノイドから分けます。残っているTHCもここで分けられます。こうして得られるのがアイソレート、つまり純度99%以上のCBDです。
訳者注:ウィンタライゼーション(低温精製)には、−20〜−40 °Cを保てる冷凍設備が必要です。停電するとバッチの温度が上がり、ワックスがまた溶けてしまいます。予備電源を用意するか、停電の時間帯を避けてこの工程を組んでください。また、エタノールの蒸気はとても引火しやすい性質があります。30〜35 °Cの室内では蒸発量が増えるので、換気と防火対策がいっそう重要になります。
最終製品
最終製品には次のような形態があります。
- オイルやチンキ。MCTオイル(中鎖脂肪酸油。通常はココナッツが原料)またはヘンプシードオイルに溶かしたもの
- カプセル
- 外用品(肌に塗る製品)
- エディブル(食品)
形態ごとに適用される規制が違います。タイでは電子たばこの輸入と販売が禁止されているため、ベイプ製品は選べません。
やるべきこと:装置を買う前に、最終製品の形態を1つに絞ってください。そのうえで、その形態にどのタイの規制が適用されるかを調べ、自社がそのライセンスを取得できるかを確認してください。
4. 品質管理
品質のチェックは、原料、加工中、最終製品の3つの段階で行います。
原料:バイオマスで検査する項目
- カンナビノイドプロファイル(CBD、CBDA、THC、THCA)。法令に適合するか、そしてそのバッチを加工する価値がどれだけあるかの両方が、ここで決まります。
- 水分。
- 残留農薬。 抽出すると農薬も濃縮されます。植物では少量だった残留が、抽出物では多くなります。大麻の残留農薬を参照してください。
- 重金属。 ヘンプは生物濃縮をする植物で、土の中の金属を吸い上げて組織にためます。ファイトレメディエーション、つまり植物を使って汚染された土をきれいにする方法の研究にも使われているほどです(Rheay et al., 2021)。
- 微生物。 特に問題になるのは、カビのAspergillusとFusariumです。カビ毒と雨季のリスクについては大麻の花穂のカビ毒(マイコトキシン)で取り上げています。
加工中:ラインの途中で測る項目
- バイオマス1 kgあたりの収量
- ウィンタライゼーション後に除去できたワックスの量
- ディスティレート中のTHC
- アイソレートの純度
最終製品: 独立した認定検査機関が発行する分析証明書(COA)を取得します。項目には、有効成分の含有量、THC、重金属、農薬、微生物、そして該当する場合は残留溶剤を含めてください。読み方は大麻の分析証明書(COA)の読み方で解説しています。
訳者注:ヘンプは土から金属を吸い上げるため、植え付けの前に畑の土を検査してください。道路、工場、古い鉱山の近くの土地では特に重要です。タイでは、農業局(กรมวิชาการเกษตร)に登録された農薬だけを、ラベルの指示どおりに使ってください。検査機関を選ぶときは認定証の提示を求め、必要な検査項目がすべて認定範囲に入っているかを確かめてください。タイで利用できる検査機関については輸出前の大麻の花穂の検査:水分、タイの検査機関、分析証明書の最終チェックで取り上げています。
やるべきこと:加工の契約を結ぶ前に、最初の収穫物のサンプルでカンナビノイド、重金属、農薬を検査してください。
5. 規制
5.1 タイ
花穂。 大麻の花穂は、保健省告示「規制ハーブ(大麻)」仏暦2568年により規制ハーブに指定されています。この告示はタイ伝統医療保護法(仏暦2542年)に基づいて出され、2025年6月26日から施行されています。栽培者にとっての意味はタイで規制ハーブとなった大麻で解説しています。
- 花穂は、認められた医療従事者がPT 33(ภ.ท.33)様式で出した処方箋がある場合にのみ提供できます。処方箋1枚でカバーできるのは最長30日分で、リフィル(繰り返し使用)はできません。タイの大麻処方箋 PT 33を参照してください。
- 販売または輸出する花穂は、GACP認証を受けた栽培地のものでなければなりません。GACP(適正農業・採取規範)は、薬用植物の栽培、収穫、記録の方法を定めた基準です。大麻の適正農業・採取規範(GACP)を参照してください。
- 花穂のオンライン販売と広告は禁止されています。嗜好目的での使用も認められていません。
- 規制ハーブを無許可で研究、輸出、販売、加工すると、1999年の同法第78条により、1年以下の懲役または2万バーツ以下の罰金、あるいはその両方が科されます。
- 花穂と抽出物の扱いの違いについては未加工のCBDフラワーと抽出物をご覧ください。
2026年のライセンス。 仏暦2569年の2つの省令で、ライセンスの条件が厳しくなりました。
- 大麻又はヘンプ抽出物に関する省令:2026年4月26日施行(セクション3を参照)
- 規制ハーブに関する省令(第2号):2026年4月30日施行。大麻の花穂のライセンス基準を厳しくするもの
どちらの省令も、PT 33処方箋のルールは変えていません。
食品。 食品中のTHCとCBDの上限値は、保健省告示で定められています。
- 第425号(仏暦2564年):ヘンプシード、シードオイル、シードプロテイン、およびこれらを含む食品が対象。第437号(仏暦2565年)で改正
- 第427号(仏暦2564年):大麻またはヘンプの植物の部位を含む食品が対象
上限値は製品の種類と1回の摂取量によって異なり、表示のルールも適用されます。レシピを決める前に、タイFDAの最新の条文を確認してください。表示についてはタイにおける大麻製品の表示で取り上げています。
化粧品。 ヘンプ由来の原料は、タイFDAの化粧品規則の範囲内で使用できます。製品が病気を治療すると表示する場合は、医薬品としての登録が必要です。
輸出。 仏暦2568年告示は、花穂を規制ハーブとして管理するためのものです。輸出許可ではないので、輸出には別のライセンスが必要です。どのヘンプ製品を国外に出せるかはヘンプとして実際にタイから輸出できるもので取り上げています。
法案。 大麻管理法案(Cannabis Control Act)はまだ法案の段階で、法律にはなっていません。内閣は2026年9月22日に法案を承認し、下院に送りました。大麻管理法案(Cannabis Control Act)を参照してください。
5.2 欧州連合(EU)
ノベルフードの扱い。 ノベルフードとは、1997年5月より前にEUで広く食べられていなかった食品のことです。そのため、販売前に安全性の承認が必要です。ノベルフードは規則(EU)2015/2283の対象です。2019年1月に、EUのノベルフード・カタログが更新されました。
- 大麻の抽出物とカンナビノイドは、合成のものや、それらを加えた製品も含めてノベルフードに当たり、承認が必要です。
- ヘンプシード、シードオイル、ヘンプシード粉、脱脂した種子は、EUで食べられてきた実績があるため、ノベルフードではありません。ただし、各国のルールが適用される場合があります。
2026年時点のEFSAの立場。 EFSAは欧州食品安全機関のことで、EUが食品を承認する際に使う科学的な意見を出す機関です。
- 2026年2月9日、EFSAは暫定的な安全摂取量を、体重1 kgあたり1日0.0275 mgと定めました。体重70 kgの成人なら1日約2 mgです。対象は、栄養補助食品に含まれる純度98%以上のCBDです。
- EFSAは、25歳未満の人、妊娠中・授乳中の女性、薬を服用している人については、安全性を確認できないとしました。
- 2026年9月、EFSAはCBDのノベルフード申請に対して初めて肯定的な意見を出しました(合成CBD、1日2 mgまで)。
- 市場で販売するには、さらに欧州委員会の決定が必要です。
化粧品。 化粧品はノベルフードのルールではなく、EU化粧品規則の対象です。ヘンプシードオイルを使った製品とCBDを使った製品では、それぞれ別に適合性の確認が必要です。
5.3 東南アジアのその他の国
- シンガポール: 中央麻薬局(Central Narcotics Bureau)は、規制薬物を含む製品の輸入、輸出、所持、販売、摂取は、ごく微量であっても違法だとしています。シンガポール食品庁は、ヘンプシードを含む食品を個人消費のために持ち込むことを認めていません。
- マレーシアとインドネシア: 大麻は各国の麻薬法で規制されています。マレーシアは危険薬物法(Dangerous Drugs Act 1952)、インドネシアは麻薬に関する法律第35号(2009年)です。種子製品と繊維製品の扱いは、現地の弁護士に確認してください。
- ベトナム: ヘンプの種子と繊維は取引されていますが、CBD製品の明確な登録手続きは確認できませんでした。現地の弁護士に確認してください。
5.4 貿易書類
- 繊維とハード(茎の芯) には通常、植物検疫証明書(植物原料に病害虫がないことを示す公的書類)が必要です。THCの申告書が求められることもあります。
- 関税番号。 税関は、HSコード(国際的な統一商品分類のコード)で貨物を分類します。ヘンプシードは一般にHS 1207.99、ヘンプシードオイルはHS 1515.90に分類されます。番号を間違えると遅延、検査、受け取り拒否につながるおそれがあるので、各国の細分番号は通関業者に確認してください。
- 抽出物。 生産量を決める前に、輸出先の国ごとに法律専門家の意見書(リーガルオピニオン)を取得してください。契約書には、規制が変わった場合の条項を入れてください。契約時には合法だった貨物でも、到着時には新しい規制がかかっている可能性があるからです。
やるべきこと:輸出契約を結ぶ前に、通関業者に輸出先ごとの正確な関税番号と必要書類の一覧を問い合わせ、書面でもらってください。
6. タイと東南アジアでのビジネスチャンス
この地域のヘンプのサプライチェーンは、まだ始まったばかりです。現実的なチャンスには次のようなものがあります。
- ライセンスを持つ加工業: 地元で栽培されたバイオマスを、ライセンスを持つ施設で抽出・精製する能力。タイでは主に北部で、ある程度のヘンプが栽培されています。
- 繊維とハード: 建築用や工業用に向けた剥皮(デコルティケーション:茎から靭皮繊維と芯を分ける工程)とハードの加工。
- 原料供給: 地元の健康食品メーカー向けの、ヘンプシード由来の食品原料(プロテイン、オイル)。
- 検査: セクション4で述べたCOAの要件に対応できる認定検査機関。
訳者注:これらはどれも、ほかのヘンプ事業者にサービスを提供する事業です。栽培者がまず考えるべきなのは、どの分野が一番大きいかではありません。これらのサービスのうち、自分の農場から利用できる範囲にすでにあるものはどれか、です。そのサービスがあるかどうかで、実際に販売できるルートが決まります。
まとめとチェックリスト
ヘンプの加工は、1つの産業ではありません。同じ原料を使う、いくつもの産業が並んでいるのです。繊維、種子、CBD抽出物には、それぞれ別の資金、ライセンス、品質管理、買い手が必要です。東南アジアでヘンプ事業が長続きするのは、ヘンプであらゆるものを作ろうとした場合ではなく、はっきり決めた1つの製品と、わかっている1つの市場から始めた場合です。
植え付けや投資の前に:
- 製品を1つ選び、その買い手、加工機械、ライセンスを具体的に挙げる。
- 抽出物の場合は、仏暦2569年の省令に基づくタイの抽出物ライセンスを自社が取得できるか確認する。
- 畑の土の重金属と、最初の収穫物のカンナビノイドと農薬を検査する。
- 最終製品に適用される食品、化粧品、または輸出のルールを確認する。
- 小さな試験ロットと、1社の買い手との書面の契約から始める。
タイや近隣の国で、これらのルートのどれかでヘンプを扱ったことはありますか。ライセンスや検査の問題で行き詰まっていることはありますか。このトピックの下に返信として投稿してください。ほかの栽培者が答えてくれます。
参考文献(後編)
- Central Narcotics Bureau, Singapore. FAQs about hemp and CBD oil products. https://www.cnb.gov.sg/educational-resources/myths-and-facts-about-drugs/cannabis/faqs-about-hemp-and-cbd-oil-products
- EFSA Panel on Nutrition, Novel Foods and Food Allergens (NDA), Turck, D., et al. (2026). Update of the statement on safety of cannabidiol as a novel food. EFSA Journal, 24(2). https://doi.org/10.2903/j.efsa.2026.9862
- European Parliament and Council. Regulation (EU) 2015/2283 on novel foods. Official Journal of the European Union, L 327, 11.12.2015. https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2015/2283/oj
- Fike, J. (2016). Industrial hemp: renewed opportunities for an ancient crop. Critical Reviews in Plant Sciences, 35(5–6), 406–424.
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- Ministry of Public Health, Thailand. Notification No. 425 B.E. 2564: Hemp seed, hemp seed oil, hemp seed protein and food products containing hemp seed(第437号(仏暦2565年)により改正). Royal Thai Government Gazette.
- Ministry of Public Health, Thailand. Notification Re: Controlled Herbs (Cannabis) B.E. 2568(2025年6月23日署名、2025年6月25日タイ官報掲載、2025年6月26日施行).
- Rheay, H. T., Omondi, E. C., & Brewer, C. E. (2021). Potential of hemp (Cannabis sativa L.) for paired phytoremediation and bioenergy production. GCB Bioenergy, 13(4), 525–536.
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